夢の続き

そのときだった。



押入れの前に置いてあった鞄の中から、携帯電話の着信音が鳴り響いた。



今日のいちかからの連絡は温泉と食事の間に取っていたので、別の誰かからだろう。

時間は夜の十一時を過ぎていて、電話を掛けてくるには余程の親しき仲か、緊急の用事以外は失礼な時間帯だ。



そういった世間体のことと、堪能していた月明かりから一気に現実に引き戻されたことで、鳴り響く携帯電話を取る気にはなれなかった。

しかし、あまりにも着信が長いため、二人が寝苦しそうな声を出したので、仕方なく縁側から押入れの前へと移動し、鞄の中から携帯電話を取り出した。


「えっ」


着信相手を見て、僕は思わず声を出してしまった。

そして、電話を取ることを更に躊躇ってしまう。


夕凪穂香


大学時代のゼミの二学年後輩。



簡潔に言ってしまえば、僕にとっての彼女の存在はそういうことだった。



そういう存在である彼女からの電話に何故躊躇ってしまうかというと、彼女にとっての僕の存在は『大学時代のゼミの二学年先輩』という簡潔なものではなかったからだ。