結局、ろくな休みも取れないまま、『地獄の三週間』が明日から始まろうとしていた。



毎年、この三週間が始まる一日前は仕事が昼過ぎに終わる。

まるで、心の準備をさせるかのような皮肉だった。

入社して六度目の『地獄の三週間』を迎えようとすると、心の準備も何も関係なく、ただ憂鬱でしかなかった。



この時間にスーツを着て、アパートがある駅の下り線一番ホームにいる・・・



やはり、憂鬱だった。



ゆっくりと日差しが当たっている場所へと移動し、ベンチに腰を掛けた。

口を開ければ溜息が出てくると分かってはいるのだが、それでも開けずにはいられなかった。



腰を掛けたばかりだが、もう一度立ち上がり前へと進む。


「確かに・・・落ち着くな」


本来なら城野月柚葉が座っているところに、僕は腰を掛けて同じような体勢を取った。

悪いと分かっていても、この静かな駅のホームと夏の日差しが憂鬱の塊と化している僕を落ち着かせてくれた。



憂鬱でしかなかった頭の中も、落ち着きを取り戻すと余計なことまで考えられるくらい余裕がでてきた。



城野月柚葉、叉渡いちか、藤堂美穂、更には市川有里香、堂岡茂、武藤敬一、大戸謙介。

自分を含めて、様々な人の名前と顔が頭の中でぐちゃぐちゃになろうとしていた。

今の自分が何をしたいのか、どの道を進み、どの道に立っているのか。

何もかもが分からなくなってしまいそうだったが、ため息一つでそれは簡単に落ち着いた。