夢の続き

「本当、久し振りだわ。

出てきても八王子までか、どちらかというと立川に行っちゃうからね」


その遠くを見ている目が、どこか寂しそうにしているように見えてしまう。

彼女のそんな表情を見るのはいつ以来だろうと考えながらも、僕の口は勝手に次の言葉を出していた。


「駅のステンドグラスに惹かれてあそこに決めたこと、後悔なんてしていないですよね」


「そっか、あんた引っ越しのときに手伝ってくれたんだもんね」


「手伝いましたし、会うのはそれ以来ですよ」


小さく笑みを零して、グラスに手を取る右手の甲には五センチほどのみみず腫れのような傷跡。

その傷を見ると、こちらのほうが痛みを覚えてしまう。


「後悔なんてしているわけないじゃん。

ああいうところのほうが逆にクライアントは来やすいし、見送るたびにあのステンドグラスを眺めているよ。

ただ、あんたや堂岡たちと仕事をしていたころが懐かしくなっただけ」


グラスの水を一口飲み、いつもの表情に戻るのを見て、僕ももう一度水を口に含んだ。



三人で仕事をしていたころ・・・



まだ、一年と少ししか経っていないというのに、彼女の口調からはそれが中学生や高校生の頃の思い出のように懐かしく思えた。


「はい、お待ち」


思い出に浸る余韻を与えず、おじちゃんは注文をしていない『おまかせランチ』という暗黙のランチを二人の前に置いた。

昨日の肉とはいえ、まだ消費するには十分で味も僕たちからすれば十分の肉をふんだんに使い、それにサラダと味噌汁がついて五百円しか取らないというおじちゃんは余程のお人好しか単なるドMだと思う。

いや、これもきっと彼女の人柄なのだろうと、味噌汁を啜りながら横顔を眺めた。



久し振りの駅、久し振りの店、久し振りのランチ。



その表情は本当に嬉しそうだった。