「よし、駅まで送ろう」


お父さんは脱いだばかりのコートをもう一度羽織って、しゃがみ込んで丁寧に靴を履き直した。


「そんな、大丈夫ですよ」


靴を履いて立ち上がり、もう一度こちらをじっと見つめてきた。

眼鏡の奥の瞳は力強く、何を言っても聞かないということが伝わってきた。


「それじゃ、すみません。

お願いします」


「うん。

美穂はお母さんの手伝いをしていなさい」


彼女は何も言わずに頷いて、こちらに向かって小さく手を振ってきた。

その手に気を取られて、僕は彼女の目に涙がうっすらと浮かんでいることを見逃すところだった。

流すはずのなかった涙が、彼女の目から零れ落ちようとしていた。

できるならば、その涙を優しく拭ってくれる素敵な人に出会えますように・・・