考え事をしながら歩いていたため、スーパーに夕飯の材料を買ってくることを忘れていたことに気付いた。
しかし、そのときにはもうアパートは見えていて、たった五分程でも引き返すのが億劫になろうとしていた。
(どうしようかな・・・)
頭を掻きながら迷っていると、僕の部屋の前に誰かがいるのが見えた。
その人を待たせるのも悪いと言い聞かせ、今日の夕飯はストックしてあるカップラーメンだと決める。
アパートの入口に着くと、その人はこちらを向いてきた。
「・・・夕凪(ゆうなぎ)」
名前を呼ぶと、自分の胸を両手で押しつけるように喜びを表現しているようだった。
その表情は笑顔だ。
けれども、さきほど見たいちかの笑顔とはまた違う、別の笑顔だと咄嗟に思った。
「先輩」
頬は赤く染まり、息遣いが荒く、どこか小刻みに震えているようにも見える。
大学時代、彼女は何度も僕に交際を求めてきた。
同時に体をも求めてきたことも、一度や二度ではない。
そんな記憶が甦り、僕は嫌な予感がした。
「どうしたんだよ、こんなところまで来て」
近過ぎず、遠過ぎず。
今のお互いの立ち位置がまさにそういう位置関係で、僕はその場から動かずに彼女に話し掛けた。
しかし、そのときにはもうアパートは見えていて、たった五分程でも引き返すのが億劫になろうとしていた。
(どうしようかな・・・)
頭を掻きながら迷っていると、僕の部屋の前に誰かがいるのが見えた。
その人を待たせるのも悪いと言い聞かせ、今日の夕飯はストックしてあるカップラーメンだと決める。
アパートの入口に着くと、その人はこちらを向いてきた。
「・・・夕凪(ゆうなぎ)」
名前を呼ぶと、自分の胸を両手で押しつけるように喜びを表現しているようだった。
その表情は笑顔だ。
けれども、さきほど見たいちかの笑顔とはまた違う、別の笑顔だと咄嗟に思った。
「先輩」
頬は赤く染まり、息遣いが荒く、どこか小刻みに震えているようにも見える。
大学時代、彼女は何度も僕に交際を求めてきた。
同時に体をも求めてきたことも、一度や二度ではない。
そんな記憶が甦り、僕は嫌な予感がした。
「どうしたんだよ、こんなところまで来て」
近過ぎず、遠過ぎず。
今のお互いの立ち位置がまさにそういう位置関係で、僕はその場から動かずに彼女に話し掛けた。



