夢の続き

「あの詩集、私が知っている限りでは一度も貸し出しされたことがないんです」


そのなかで微笑む彼女が眩しく映り、現実ではなく、何かの映画にでも迷い込んだような錯覚。

そんな錯覚を彼女が作り出しているのであれば、それは間違いなく彼女が持っている美しさであり、女の子ではなく女性の魅力というものだろう。


「凄いな。

じゃあ、今度来たときは俺も誰にも貸し出されたことがないやつを読もうっと」


「それじゃ、お薦めの本がありますよ。

もう、すっごい分厚い本」


「お手柔らかに・・・」


「へへへ」


嬉しそうに笑う彼女の頬が少し赤いのは、まだまだ冷たい風のせいなのか、それとも照れているのか僕には分からないが、嬉しそうにしていることは間違いない。



そのまま僕たちはバス停へと歩き、他愛もない本についての会話を繰り広げた。

会話の最中、彼女はずっと敬語だったが、確かに図書館で動かした口は敬語ではなかった。

そのことがこの日一番の喜びだということを、僕は認めざるを得なかった。