それは前触れもなく香りだす
甘風という、やさしい香りの風。
そよそよと部屋のカーテンを揺らし
月明かりの差し込む窓辺から、昔の記憶が重なる。
-パパ、あまいにおいがするよ
-いいかいミグ、これは『あまかぜ』というんだ
-おいしそう。お菓子のにおいなの?
-ははっ、違うよミグ。これはね――
「…パパは今日も帰ってこなかったなぁ。」
私はそっと窓を開ける。
今日はとてもきれいな夜だ。オトツレ草も青白く光っている。
月がだいぶ近づいているのだろう。
月明かりと混じり、丘の全体が青い光の世界に満ちていた。
「ミグー?ちょっときてくれるー?」
下から声がした。
見下ろすと、白衣姿のママがいた。
なんだかとてもうれしそう。
「はーい!今行く!」
私は大声でママに答えた。