いつの間にか
おばちゃんたちが全ての野菜を取っていた。


俺たちは
空のケースの前に立っていた。






俺は膝から落ちた。

両手をついた。






俺の野菜が…。

今週の緑が…。








「…松岡くん?」




彼女は
俺の隣にしゃがんだ。

耳元であのイケボが囁いている
状態の俺はもうそれどころじゃない。






「えっと…
これ、よかったらどうぞ」


そう言って
彼女のかごに入っていたいくつかの野菜を
俺に手渡した。


「えっやっでも…」

「ううん、いいの!
私とお父さんの分だけだし」






…。

俺は何も言えずに
ただそれを受け取った。





「ふふっ
松岡くん、さっきの「あっ」って声
すごく可愛くてびっくりしちゃった」


「ふぇえ!?」



「あっやっぱり可愛い
じゃあね、松岡くん」






そのまま
なんとなくその場をやり過ごし、

スーパーを後にした。