ヴー、ヴー……。

毎度のように心地良い眠りを妨げる不快な音が、私に1日の始まりを告げる。


「うるさい……」


そして、私のそれは毎度のように慌しい。


「おはよう、莉奈」

「"おはよう"ちゃう!あんた何やってんの!?」


莉奈の声は普段に比べると、やけに大きい気がした。

そのおかげで私の意識ははっきりと目を覚ます。


「莉奈のモーニングコールで目、覚めたとこ」

「い、今起きたん!?もう入学式始まるで!」


いつも冗談を言ってからかってくる莉奈のことだ。

今も私を驚かそうとしているのだろう。


「またまた。冗談は顔だけに――……」


私はそう言いながらも、上半身を起こして壁時計を見上げる。

動き出そうとしていた思考回路が、ぷつりとその動きを止めた。

同時に、私は無意識に電話を切る。


「く……9時〜!?」


家が飛び上がるぐらいのバカでかい声で絶叫し、寝起きでよろめく足を必死に動かして1階へと続く階段を駆け降りた。

莉奈は冗談で言ったのではなかった。

本当の本当に、入学式がもう始まるのだ。

新生活への入り口の門が、閉ざされる直前だった。