とん、顔の横に手を置かれているのがわかる。

無駄に整った、ひとことで【綺麗】そう形容させる顔の男が近づいてくる。
私は微動だにしない、眉ひとつ動かさないまま近づいてくる顔を眺める。


ゆらり、唇が触れるか触れないかそんな距離で男が目を開いた。女よりも断然長いまつげをぱちり、またたかせ。

私と視線が合うと
ふふ、音を立てずに男は笑う。
ぞっとするほど冷たかった瞳が柔らかく細められる。


……俺の負けだね、今日も

負けと言いつつ嬉しそうな声音が私の耳に吹き込まれる。

相変わらずどMですか……

私の言葉は笑顔で流す。
そして愛おしいものでも見るような目で 大切な壊れ物を扱うような手で私の髪をすく。その無駄に優しい手つきが嫌いだ。嘘、大嫌いだ。


またね

再会を思わせる言葉を、この男は数多の女にはいてきているのだ。それをわかっていながらすべての女が男に従う。

近づくとシトラス、その爽やかな香りより
去り際にしか香らないほろ苦い煙草の薫り。私は此に騙された。


……この男はずるい。
これだけのために何とも思っていない男の元へ貴重な昼休みを潰してまで来るはずがない。



負けているのは
いつもいつも私の方なのだ。

それを知っていながら今日も男は敗を吐く。





昼休み、誰も近づかない資料予備室で行われる男と女の無言の戦い、、




........