「一つ、聞いていいか?」
先輩がいきなり真剣な顔をしたから、思わずビクッとしてしまった。
「何ですか?」
「彼氏いるって本当か?」
噂、もう広がってるんだ。
「…はい。」
「そう…」
何でそんなこと聞くんですか?
そう聞きたかったけど、口には出せなかった。
「一緒に帰ったりしなくていいのか?」
邪魔ってこと?
それで聞いたの?
「お姉ちゃんと帰らなきゃだから…」
ちょっとだけ。
切なかった。
「もう高三だぜ?一人で帰れるだろ。お前だって一人で帰ってたじゃん。」
「私とお姉ちゃんは違うんです。私、愛されてないから……」
そう言った瞬間、いろんな思いが溢れだしてきて。
突然涙が流れてきた。
「小さい頃からそうだった。みんな菜々、菜々って。」
「………」
「愛されたい。ただその一心でいろんなことを頑張った。勉強も運動も。家の手伝いもして、言うことも聞いて。いつもいい子にしてた。でも、一度だって褒めてくれなかった。」
「………」
「私、悪い子ですか?私が捻くれてるから愛されてないって思うのかな…?」
涙で視界が歪んで見える。
溢れだす涙も。
溢れだす感情も。
自分では止められない。
全てが溢れて尽きてしまえばいい。
そうすればこんなにも醜くはなくなるだろう。
少しはきれいになるだろう。
そう思った。
「気づかないだけで傍にあるかもしれない。お前は悪い子なんかじゃないからさ。絶対いるよ。愛してくれる人。」
先輩はそう言ってくれた。
その言葉に、少しだけ。
ほんの少しだけ救われた。

