目の前に、何か落ちているのを見つける。


電車の定期だ。


この状況でここに落としてったのは、一人しかいない。


間違いなくあいつ……高坂。


私は困ってしまった。


どうする……届けてやるか?


いくらやな奴だといっても見つけたのに無視するのはさすがに気が引ける。


電車通学の人にとっては、定期はすごく大事なもの。


たいていの場合、定期にはまとめて1000円以上のお金を入れるから、これをなくすと財布を落としたのと同じくらい困る。


しょうがない…持ってくか。


人が困るのを気付かないふりで黙って見ているのはバツが悪い。


仕方なく私はその定期を拾い、足を引きずるように再び歩き出した。