桐人から受け取った黒い小箱の見当は付いていた。そして、新井は小箱を開けて良いかと桐人に尋ねた。かぶりを大きく縦に振り拓真は微笑んだ。

「律子への俺の気持ちです…」

 新井が、小箱を静かに開けた。

「これは!……」

 新井が察していた通り、そこには燦然と輝くダイヤモンドのリングが納められていた。

「判ったよ…本当に律ちゃんを愛している気持ちが伝わってくるよ。今、渡せないのも訳があるんだろう…二十年後のクリスマスイブだな?絶対に取りに来いよ!二人共…でも、長いぞ二十年は…何が起こるか誰にも見当が付かない。この店すら残せているかどうか解らない……」

「その時は、その時です」

 桐人は微笑んで言った。律子も、指輪を見ようともせずに桐人をじっと見つめ微笑んだ。
 その二人の微笑みは、この指輪より、遥かに輝きを放っていた。

 二人が別れるのを見るのは新井は辛かった。
 しかし、二人は二十年後という長い時を、まるで明日にも又、逢うような爽やかな別れだった。

「必ず彼らは現れる!彼らの為に、俺も頑張らないと!それが自分の為になる気がする…」

 新井は、二人に神と云う存在をうっすらと感じさせられていた。