極妻

埃ひとつ落ちてない、ピカピカのベンツの後部座席で、鬼塚さんに話しかけた。


「なぁ。うちが御劔組組長の嫁やってこと……つまり、カタギの人間やないってこと、新しいクラスメイトさんらは知らんのやろ？」


「………」


「それ、ずっと内緒にしとくわけにいかん？」


関西に住んでた頃は、私が大倭会の会長の娘やて知れわたってたから、物心つく前から、まともな友だちもできひんかった。


学校の友だちや先生らは、表面的には愛想よくしてくれたけど、ホンマは腫れ物にふれるような扱いやった。


みんな、大倭会て名前が怖かったんやろ。


せやからこっちでは普通に過ごしたい。せめて学校にいる間くらいは。


「分かりました。校長には私から伝えておきましょう」


「ほんま？おおきに！ほな、門の前やなく、学校の近くで止めて！こんな“いかにも”な黒塗りのベンツで乗りつけたらバレバレやろ？」


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