その時は突然来た。


私がこの部屋にはいって、十分くらいしたやろか。寝室の戸が、突然ピシャッと開いたんや。


朔夜や!朔夜が来たんや!


ビクッとして思わず正座して頭をさげてしまった。


「……うぅ…っ」


ついに、ついに、この時が来た。
嫌や!!こっちこんといてーっ!!


震えながらいくら念じても、そんなの通じるはずなく、畳をすべる足音はゆっくり近寄ってきた。


嫌っっ!あっち行ってぇや!!


しかし、とうとう朔夜は私の目の前に立った。


畳に伏せた視界に、寝巻きの裾からのぞく白夜の足首が入った。骨ばった足やった。


そして同時にシトラスに似た、爽やかな香りが鼻孔をついた。


「…………!?」


すると、


「やっと夫婦水入らずか。よく来たな小夜子」


「………!?」


それはこの屋敷に来て、朔夜が初めて私にかけた言葉


……の筈やった。


でも、私はその声に、とても強い違和感を感じた。



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