蒸し暑い夏の夕暮れだった。
俺が帰宅すると、床に小夜子がペタンと座りこんでいた。


「どうした?電気もつけねーで?」


小夜子は泣いていた。
俺と目が合うと、さらに大粒の涙がこぼれた。


「……ぃちゃんが……にぃちゃんが……っ…」


小夜子の口からあの男の名前が出たのはこの10年で初めてだった。


「……どーかしたの?」


震える肩を抱くと、呼吸を整えて小夜子は言葉を絞り出した。


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