「うわぁぁぁぁぁ…」


あの朔夜が!?……信じられん!!!!ぜ、全身がくすぐったい!!!!火照るーっ!!!!


だ、だいたい、仮に、万が一、そうやとしても、何でこのタイミングで『離婚』なんて言い出すの?


すると私の疑問を見透かしたように、鬼塚さんが答えた。


「火事の夜のことを覚えてますか?あのとき、朔夜様に助けられたあと小夜子様は、ずっと"ある人"の名前を叫ばれていました」


「………!?」


その言葉で、冷や水を浴びせられたようにサアッと熱がひいた。


尊兄ちゃんや!
だってあの時、兄ちゃんが助けてくれたと錯覚してたんやから。


私が『尊兄ちゃん』て呼んだから、朔夜はショックだったってこと?傷ついたってこと?


だから急に離婚やって言い出したの?


「……旦那さんが……本気でホンマにうちのこと好きや…って思う?」


一人言のように呟いたとき、信号が青に変わって、鬼塚さんは前に向き直った。


「小夜子様といる時のあの方はふだん決して見せない顔をなさいます」


このとき、父親のような兄のような、はじめて聞く優しい声になった。




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