はっとして横を見る。椅子に腰かけて腕を組む兄ちゃんと目があった。
さっきとは違う、いつも私に向けてくれる穏やかな瞳が。
「すこし痩せたんとちゃうか?飯食ってるか?」
「…兄…ちゃん…ッ」
「女はなぁ、痩せてガリガリよりもポチャッとしてた方が男受けエエんやで?早よ退院して栄養つくもん食べなアカンなァ」
兄ちゃんはとても鋭い人やから、いまうちが何を考えてたか見抜いてる筈や。
けど鬼塚さんがさっき言うたことに、何にも触れん。あの頃と変わらない飄々とした喋り方で、寂しそうな微笑みを浮かべてる。
懐かしくて、愛しくて胸が焼けるように苦しくて、涙が落ちた。そうや、兄ちゃんは飛んできてくれたやない。あんなに心配な顔で。
「兄ちゃん……尊兄ちゃん……ごめんな?…うち……でも、兄ちゃんにやったら……」
たとえ殺されても恨まへんよ。
涙は止めどなく溢れて視界が滲む。
東京に来てから今までの気持ちが一気に込み上げてきた。兄ちゃんの胸に飛び込みたい。
でも、頭の片隅にはさっき見た朔夜の姿が焼き付いてて、消せなかった……。
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