チッと小さく舌打ちをして、心ばかりの(伝わらない)反抗を捧げてから、静かに開いた自動ドアを抜けてエレベーターに乗り込む。
最上階で降りてドアの前までやって来て、大きく深呼吸をしてから両手に力を込めて気合を入れる。
合戦に挑む武将の気持ちが少しだけ解ったような気がした。
もう一度深呼吸をしてベルを鳴らすと、しばらくしてゆっくりドアが開かれた。
「どんだけ待たせんだよお前は……」
顔を覗かせた悪魔は、いつもより随分と弱った様子を見せていた。
普段はきちんとオールバックに整えている髪はボサボサで、今の今まで寝ていたような虚ろな瞳。
顔もほんのり上気していて、熱が高い事を伺わせている。
かなり萌え……いや、かなり辛そうだ。
「……すみません。でもその、私も休日出勤でして……。いきなり言われても困ると言うか」
「……お前、いま『萌える』とか思ってねぇだろうな」
「滅相もないッッ! 風邪で辛い所をお待たせして申し訳ありませんでしたァッ!!」
読心術かと思えるほど的確なその予想に、私は思わずオーバーアクションで両手を振った。両手と言わず首まで振った。
「まあいいや。取りあえずそこで騒いでるとご近所に迷惑だから入れ」


