「……船…そっか…」
あの船に乗り、海を渡ると、もう本当に脱出成功するんだ…。
茜色の空と海の間にある、大きな大きな船を、二人は呆然と見た。
その二人に、千草が無理矢理笑いかけた。
「………さ…行きなさい…これで貴方達の悪夢が本当に終わる…」
だが、千草がそう言っても二人は固まってしまい、その場を動こうとはしない。
二人の体が微かに、震えていたのを千草は見逃さなかった。
「………」
千草は車両席から出ると、よろよろしながら歩き、外から真理和側のドアを開けた。
――ガチャ
「……さ…おいで…」
千草はそう言って、手を差し延べた。
その白い、ゴツゴツした手を真理和がゆっくり握った。
「……さ…おいで?」
そして二人はやっと車の中から出た。
三人の体を、茜色の光が包む。
その三人の前の海岸には、大きな船が、波に揺れていた。
無表情の永遠と真理和の頭を、千草は優しくなでた。
「………がんばりましたね…本当…偉いですよ…永遠くん…真理和くん…」
口元とお腹が血まみれで、とても酷い姿になってるが、千草はその表情から笑顔を消さなかった。