ありえない…。

わたし…寝てた?



起き上がって、枕替わりにしてたらしい
ダンボールを見ると、

( 気持ち良さそうに寝てるから
起こすのやーめた。笑
外、暗いだろうけど 気をつけて
帰ってねー! by.水嶋雪 )


黒のサインペンで、水嶋先輩が書いたであろう達筆がかった字。
その横には、冷えきってしまったココアが置いてあった。

ココア買ってくれるくらいなら
起こしてほしかったな。


なんて思いつつ、冷たくなったココアを一口だけ飲んだ。



〜♪

胸ポケットのスマホから鳴る
リズムを坦々と刻む着信音。

あ〜、お母さんかな。


すぐ帰るから、と伝えて通話を切ると
不意に窓が視界に入る。

窓ガラスの向こうには、
億千の星と 吸い込まれそうな暗い夜空。


「 天文部に入ってよかった〜 」

そう呟きながら、窓まで歩みを進める。
両手で窓を開けると、ひやりとした冷たい風が流れ込んできた。

春って言っても、夜はまだ肌寒い時期。
やっぱり寒い日って星が綺麗だ〜!


「 あれ北斗七星! あっちがりゅう座ね 」

好きなだけあって、星のことは
よく知ってる。



「 へぇ、詳しいんだ… 」


見知らぬ声に驚き、振り返る。
ドアノブに手を掛け、入ってきた状態で
止まったまま わたしを見つめる男の子。

扉が閉まってないせいで、冷たい風が
一層冷たくなって吹き込んでくる。


「 わっ… 」

その風で飛ばされた書類やら
何やらが部室中に散らかる。

もう…。
扉、ちゃんと閉めてよ〜。


わたしが怒った顔をすると
「 あぁ、ごめん 」
とだけ言って、扉を閉める彼。


「 あんた、相澤マミ? 」


散らばった紙を丁寧に
1枚ずつ拾い上げる。

紙束を綺麗に重ね、屈んだまま
こちらを覗き込む彼の瞳は

広大な荒野のごとく、凛々しく、
どこか寂しげな暗い色をしていた。


「 俺、天文部の1年だけど 」

仕切り直すように
間を切る言葉。


「 部員は水嶋先輩とわたしだけじゃ? 」
「 は? 俺もなんだけど… 」
「 え? 」


口を開けたまま固まっていると
彼は呆れたように言う。


「 そこはどうでもいいけどさ
なんでこんな時間までいるわけ? 」



それ、わたしのセリフ…。


「 なんだっていいじゃん、それより
なんでわたしの名前知ってるの? 」

「 部員名簿に書いてあるだろ 」




あ、名簿見てなかった。



「 ほら 」

雑に手渡された名簿。
見ると彼らしき名前がある。


- 1学年 : 青野 翼 -


あおのつばさ?




水嶋先輩はいいとして…。

正直、少し愛想悪い青野君と
この天文部を一緒に頑張るとなると…

なんだか いい明日が
見えない気がした。