喫茶店の中に雨を逃れて、白いブラウスが駆け込んできた。

ズブ濡れの女は小さなハンカチで濡れた体を拭いながら、申し訳なさそうにマスターを見つめた。

マスターは笑みを浮かべながら片手を差し出し、カウンター席を示した。

女は入り口付近で軽く体を震わせ申し訳程度に体の水気を払いカウンター席に座った。

僕はカウンターの横にある4人掛けのボックス席から女の様子を覗き込む様に見つめる。

女は取り敢えずキリマンジャロを頼んだ。

よほど雨にあたったのか、白いブラウスに合わせた紺のタイトなスカートは水気を含んで女の腿に張り付いていた。

白いブラウスも女の肌に貼り付き、女の肌の色と空色の下着を透かせていた。

女が入店してから、僕はある疑いを持っていたが確信が持てた。

女のブラウスとスカートの表面が僅かに乾いてきた頃、昼間に嗅いだ清潔な香りが店に漂ってきた。

その香りは、ほんとに微量であるが僕の鼻先をくすぐった。

間違いない彼女は昼間のエレベーターの女だ。

僕の胸が高鳴るのを覚える。

安っぽく弱い酒で酔いが回ったのかもしれない。

ただ僕は高鳴る気持ちを抑える自信が無かった。

カウンター席で、大切な物を抱え上げる様にコーヒーカップを持ち上げながら口元に運ぶ彼女から、僕は目が離せなくなった。