今まで僕はこんなにも熱を持って言葉を発した事はあっただろうか。

明子と喧嘩した時だって僕は熱を持った事が無い。

僕は今まで他人の感情の波に自ら飛び込もうとした事が無い。

僕は決して感情が欠如している訳では無いし普通に頭にくる事は多々ある。

ただ感情を表に出す事をいつ頃からか恥じていた。

僕は夏恵にぶつけた感情に妙な懐かしさを感じた。

久し振りに見た景色に時の流れ以外の既視感を覚える様な、そんな懐かしさが込み上げてきた。


『トモ・・・・私はナツエ・・・それ以上の何も無いわ・・・あなたは何を恐れているの?・・・私もあなたを愛してる、それ以上に何も無いわ。』


夏恵はそう言って僕の頬を撫でた。

その時僕は初めて自分が涙を流していた事に気づく。