海沿いの街は今がまだ夏である事を主張するかの様にギラギラとした太陽が照り付けていた。

否応無しに降り注ぐ日差しをたまに遮る街路樹が作った影を抜け駅前の待ち合わせ場所に向かう。

夏恵は初めて出会った時に着ていた様な真っ白な七分丈のブラウスとブルージーンズに白い綺麗な銀色の飾りが付いたミュールを履いて、夏の日差しの下、僕を待ち佇んでいた。


『・・・お帰り・・トモ』


助手席にあの清潔な香りと共に夏恵が吹き込んできた。

僕の思考はその媚薬で一瞬にして凍結する。

僕の心は彼女の前に平伏し、彼女の寄せてくる唇に逆らう事が出来ない。


車で駅前から離れて暫くして僕は見覚えのある風景に出くわす。

ここになぜ見覚えがあったのかは直ぐに分かった。

この路地を入れば僕が初めて夏恵を見かけた、くすんだコンクリートの外壁の雑居ビルだった。

僕は路地に入り雑居ビルの前まで来て車を停めた。