浮き輪が膨らむと僕は波打ち際まで歩いて、円盤投げの選手の様に大きく海へ放った。

浮き輪は上手く飛ばず波打ち際から7~8mの水面に落下した。

そして数分程水面をゆらゆらと彷徨い、やがて打ち寄せる波に誘われ波打ち際まで戻ってきた。


『・・・戻ってきちゃうね・・』


『もう一回投げてみるさ・・・』


僕は波打ち際に打ち寄せられた浮き輪を取って、もう一度海へ放った。

今度は先程よりも少し遠くに飛んだが、先程の様に水面を彷徨い、そしてまた波打ち際に打ち寄せられた。


『・・・もう一回。』


そう言って僕は、その後も二度海に浮き輪を放ったが同じ様に波打ち際に打ち寄せられた。

そして5度目に投げて戻ってきた浮き輪を取り上げて水を掃い左脇に抱えて明子に『行こう』と言って波打ち際から離れた。


『・・・いいの?』


『戻ってきちゃうし・・・それに・・・』


『・・・うん』


明子はそれ以上僕に何も聞かずに、僕の後を追うように波打ち際から離れた。