HとSの本 〜彼と彼女の夢〜

 ただいま。
 心底疲れ果てた。もはや立つことも億劫でならない。
 ――ぴこぴこぴこ。
 だというのに。
 能天気な足音が二組近づいてきた。
 それらは頭の上で止まると。

「めし」
「ご飯」

 欲望に忠実な二匹だった。
 ん、と口を開くのも面倒だ。
 差し出す紙袋。床に置いてがさがさ揺らした。
「……何をしておる」
 そわそわしているアサ。
「わしたちを猫と思って挑発しているな?」
 不適に笑うシンヤ。二匹とも、すでに臨戦態勢だった。

 ――がさがさがさがさがさがさがさがさがさがさがさがさがさがさがさがさがさがさがさ…………

『にゃーーーーーーー!!!!』

「かかった。」

 小さな紙袋に顔を突っ込む二匹。実は特殊な材質で、濡れないと破けないのだ。
『ふぎゃーーーーー!?!?』
 さて。折り重なってじたばたする猫どもだが。
 何分持つかな?



 ――がくっ。



 ……はやいな。三十秒か。
 ――じたじたばたばた。
 また抗い出した。
 正直不気味な光景になりつつある。二転三転する縦に長い紙袋。そこから覗く短い足と寸胴。コレなんて怪奇生物?

 ――がくっ。
 ――じたばたじたばた……。
 ――がくっ。
 ――ばたじたばたじた……。
 ――がくっ。

 生き返っては死んでを繰り返す。いい加減見ていて欝陶しくなってきたが。
「あっ」
 袋の表面が黒ずんでいる。
『ふしゃーーーーーー!!!!』

 ――ばりばりばり!

 あの猫ども、涎で脱出しやがった。