花と死(前編)

女が目をぱちくりさせていると、何かが隣に舞い降りた。

狼の耳にユニコーンの角。

その姿は、憤怒の罪人。

サタンだ。

「貴様、何のつもりだ。」
女はサタンに掴みかかる。
「あぁ、貴様がその女に未練がありそうだったから転生させてみた。」
「それがこれか!」
「そうだ。失敗した。」
「……これで、4度目だが。」
「いいだろう?」
「良くない!」
サタンは淡々と話す。
「大体、俺は戻ると了承した。何が不満だ。」
「焦ることはない。戻りたければもう1度死んでみるといい。」
「……ふん。」
女は不機嫌そうにそっぽを向く。
「もしかして、御前……」
「ヴォルフラムだ。」
女は名乗る。
「!!」
クラウジアは驚きながらも抱きついた。
「フランっ……!」
「済まない。心配させた。」
ヴォルフラムは優しく抱き寄せた。
「次に転生するときは戻る時だ。心せよ。」
サタンはクラウジアにそう言うと、ヴォルフラムを見る。
「案ずるな。そのうち、その姿は男へ戻るだろう。」
「そのうちとはいつだ。」
「そのうちだ。」
そんな適当な返事をすると、消えた。
「無責任な罪人だな。」
クラウジアはサタンが消えた場所を凝視した。
「罪人も、失敗するのねぇ……」
魔女が笑う。
「うるさい。」
ヴォルフラムは身を隠すようにシーツを頭から被った。

「……」

(転生など、求めていない。)

そう考える。

(愛せなくていい。俺は、こんな輪廻……)

かなしい、くるしい、うんざりだ。

いっそ、愛さなければ傷つかないのに。

求めなければ良いのに。

……さびしい。

「フラン。」
やさしく、こえがした。
「クララ。」
虚ろに応える。
頬を赤い血が伝った。
同時に、クラウジアがシーツをゆっくりと捲る。
「泣くな。私も、泣かない。」
子供をあやすような言い方でクラウジアは、ヴォルフラムの瞳から溢れる血を拭った。
「御前が生きるなら、私はどちらでも構わなかったのだ。御前が女であってもその考えは揺るがない。」
「そうだよ。フランさんはフランさんだよ!」
クラウジアに続けてシエリアが笑って言った。
「あぁ。そうだな。」
そう言うと、ヴォルフラムは立ち上がる。
立ち上がっても長い銀髪が足元でぞろびく。
「ヴォルフラムさん。少し、後ろ向いてて。」
エリミアはそう言うと、ポケットから髪ゴムを2つ出した。