花と死(前編)

クラウジアの言葉の先を見透かして答える。
「この世の憤怒を背負い、万象を識る。その上でひとを愛することなど叶わない。」
どこか諦めたように言う。
「だまらっしゃい!」
そう叫んだのはエリミアだ。
目を丸くして、全員がエリミアを見る。
「生きている限り、ひとはひとを愛するのよ。その為に、神はこころをつくったの。」
真剣な表情で言う。
「我々はその神から罰を受けしものだ。」
男はそう言いながら、崩壊していく。
「フランっ……!私を、おいていくな。」
クラウジアは縋り付く。
「最初から諦めてるんじゃないわよ。」
エリミアはむっとして睨み付ける。
「愛せないとか、叶わないとか……そんなの、生きてみなきゃわからないじゃない。」
「エリミア……」
クラウジアはどこか決心したように真っ直ぐ男を見た。
「御前に生きて欲しい。」
その表情は悲しい程に強い意志が篭っている。
「そうか。」
男はゆっくり瞼を閉じた。
身体が崩壊し、辺りに血が飛び散った。
その血はやがて、一箇所に集まり、人型になった。


————深い奈落の底で、男は蹲っていた。
息が詰まるほどに誰の声もしない空間。
地面は凍てつく氷のように冷たい。

もういい。

このまま、誰も近寄らなければいい。

転生も、戻ることも、もううんざりだ。

ヴォルフラムは僻むような拗ねるような表情をした。
それでも、容赦なく声がする。
「貴様は、戻りたいのか?」
幾度と繰り返される同じ問い。
その問いが静まった。
サタンが舞い降り、ヴォルフラムに近寄る。
「女は決断を下した。」
「……」
ヴォルフラムは黙って目を閉じた。
「漸く、この運命からもお別れか。」
「でも、許したわけじゃない。」
背後から、タナトスが現れて言う。
「貴方を憎み、奪い続けるわ。」
「わかっている。」
その言葉をさいごに闇から光が差した。

けれど

愛していたい。

縋り、泣いていた愛おしい女。


人型になったものがシーツを手繰り寄せる。

液体だったものが結晶になり、割れた。

その中から出てきたのは

「……え。」
クラウジアが目を見開いた。

その中から出たのは、髪が床にぞろびくほど長い女だった。
「……えっ。」
その女も目を丸くしている。
「ふふふっ」
魔女はまるで、失敗した魔術を見るように笑っている。
シエリアは困った顔をしている。
エリミアも同様だ。