PM 6:30。目を真っ赤にした奏はベッドで丸くなっていた。
帰ってくるなり階段を駆け上がり部屋に引きこもった娘に困惑したものの、母親は気にしないことにしたのか、チラッと心配そうに見はするが、階段を上る気配はない。
 魂が抜けたかのように、ぼーっとして動く気配のない奏は、帰ってからも、しばらくは泣いていた。一樹に彼女がいたことが相当ショックだったようだ。
「彼女さん、綺麗な人だったなぁ…。野上先輩、やっぱ、モテるんだぁ…」
 無意識に呟いたその言葉に気づいた瞬間、奏はまた涙をこぼした。
「私、初恋だったんだけどなぁ…。ははっ……。恋した日に、失恋、しちゃったっ……」
 ぼろぼろと次から次へと溢れ出る涙を拭こうともしないで、奏は静かに泣き続ける。
 泣きながら奏は、初恋は叶わない、という、よく聞く言葉の意味を、知った気がしていた。
「ユイ、おいてきちゃった……。明日、怒られるかなぁ…」
 教室においたまま帰ってきてしまった幼なじみを思い出し、奏は少しだけ、笑った。