ぽつり、
6時間目が終わるまであと10分。

雨が降り始めた
この様子だとたぶん、帰る頃には土砂降りだろう。

(憂鬱…)

授業が終わったあとにはあの男の相手もしなきゃいけないと思うと益々憂鬱になる


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読み通り、放課後の外はゲリラ豪雨みたいにバケツを引っくり返したような雨だった。

あー…帰るのめんどいな

「かーえろ!!」

……はぁー

声をかけてきた相手の顔を見た瞬間にため息をつく。

「え、ちょ、なんで!?俺の顔見てため息つくとか酷くない!?」

「酷くない、煩い黙ってて」

がーん、その言葉が聞こえるくらいな表情をする。感情表現が豊かなことは良いことなんだけどね。

「……で、あたし今日別な人と帰るから」

「え、だれ?」

声ががらっと変わり別人かと思うような男が顔を除かした。
初めて見るその変貌に無意識にごくりと喉をならす。

「だれでもいいでしょ、だから先帰って」

「なあ、だれだって」

「……」

なんでだかあいつの顔を見れなくなって土砂降りの雨に顔を向けた。

「なあ」

「……」

「おい」

「……」

「ねえ きーてんの?」

「……」

「無言て逆に疑っちゃうから……」

さっきまでの強気は何処に行ったんだか声が震えている。でもそんなとこに気をとられてらんない。

「はあ!?ふざけてんの?疚しいことがないから堂々と教室で待ってるんでしょ」

「だって!!あー!!!!!!あのなー!!
俺だってわかんないんだよ!!!!
なんで俺と付き合ってくれてんのかが!!」

「っっ!!!!」

ガタンッ

座っていた椅子が倒れるのを無視してあいつを壁際に追い込み、ガンッ、音を立ててあいつの体の横の壁に足を置く。


「あたしがあんたを好きだって言ってんだから!!!!あんたがそれを疑うなバカ!!」

あたしがそんな可愛いあまい台詞を常日頃言えるキャラじゃないの知ってるでしょ………

語尾が最後には呟き程度になってしまう。




え、無反応?


顔が真っ赤なのを自覚していて顔を見上げようとも思えず…あいつの言葉を待つ。







それでもなお…反応がない

すうっと息を吸い込んで睨み上げる勢いであいつの顔を見た。


ぽかん、と真っ赤な顔で固まっている。
あたしと視線が合うと片手で顔を覆い、もう片方であたしを抱き寄せた。

「その顔反則……」

耳元で熱っぽいそんな声がした。

何時もならなにしてんのと突き飛ばしているけど…たまには素直になろうか。


あいつもすうっと息を吸い込む音が聞こえ、体をばっと離され気づけば

形勢逆転していた。

ひやり、一瞬背中に感じた壁の温度も上から降ってきた音に気にならなくなる。


顔の真横についているあいつの両手。
お陰で、顔はすごく近い。

「……うん。大好きだよ」


その言葉に顔を赤らめて頷いてしまったのはいつもとは違うトーンの、表情の、空気の、せい。

あ、虹!綺麗。

きっと降ってきたキスは夕陽味。



校舎を出て、沈みゆく夕陽に照らされた影は長く伸び みずたまりは輝いている。




繋がれた手と未来のように─────