ふたりなら。

 ……麻耶、何を考え込んでいるんだろ?私、何か変なこと言ったかな?
 不思議に思って首を傾げると、麻耶は「ううん。なんでもない。」と、話を切り上げてしまった。
 …もぅ、その終わり方は1番気になるのに~。違う意味でドキドキしちゃうよ~。
「あ、もうそろそろ召集じゃない?」
 麻耶に言われて時計を見ると、召集開始5分前だった。時間が近づき、程よい緊張感が戻ってくる。
「……いよいよだ。」
「緊張ほぐれた?」
「うん!」
「よっしゃ!行って来い!」
「了解!ありがとう!」
 麻耶に背中を押されて競技場へ駆け出すと、そこには壮大な景色が広がっていた。
 ━━灼熱の太陽が蒼いゴムで覆われた陸上競技場を照らしている。緊張とこの暑さのせいで汗が止まらない。息も上がっている。
 レースの紹介が終わり、今は出場選手1人1人の名前とゼッケン番号、学校名が呼ばれている。
「第6レーン。113番、橋本さん。白崎。」
 私の名前が呼ばれた。
 手を挙げ、客席に一礼をして、集中する。
 客席では、全校生徒の半数の生徒が応援に来てくれた。残り半分の生徒は今、決勝戦が行われている野球部の応援に行っている。
 みんなの声援が、競技場に響き渡る。みんなの方を見てみると、その集団の真ん中に麻耶がいた。メガホンを持っていて、いつも以上に麻耶の声が聞こえてくる。
 …さっきまでメガホンなんて持ってなかったのに、いつの間に見つけたんだろう?
「━━以上9名の出場です。」
 気が付くと、アナウンスが終わっていた。ハッとして顔を上げる。
「On your makes (位置について)…」
 スタートの合図がかかった。
 私は、1つ息をついて、目の前のレーンを見つめる。
 競技場に一礼して、スターティングブロックに足を添えて、もう一度集中する。
 もう周りからの声援は聞こえない。
 目の前のレーンを見つめていると、昨日の言葉が頭をよぎった。
『…俺も頑張るから、お前も頑張れ。』
 ━━そうだ。浅榎だって、今は戦ってる。同じ空の下で、一緒に戦ってるんだ。
 私は1人なんかじゃない。
 だから…勝たなきゃ!!
 スタートラインに手を添えて目を閉じ、集中力を研ぎ澄ませる。
「…set (用意)」
「……パン!!!」
 ピストルの乾いた音と共にそれぞれのレーンに飛び出す。ここでやっと、周りの歓声が徐々に入ってくる。
 視界には常に他校の選手が入っているから、自分のものではない呼吸の音と足音、負ける恐怖がつきまとう。
 もはや、誰が1位なのか分からないくらい一列に並んでいた。
 …浅榎と交わした約束。
 その約束を果たすため、全力で競技場を駆け抜ける。
 すると、隣のレーンの選手が迫ってきた。去年の地区予選からずっと一緒に戦ってきた、黒須中の宮野莉夢(みやのりむ)さんだ。
 他のレーンの選手よりもずっと近くで聞こえる息づかい。
 (怖い…怖い……。でも…絶対に負けたくない…!)