ふたりなら。

 そして、私が浅榎を好きになったきっかけ。 それは、学級委員の仕事で居残っていたとき━━
『なぁ、橋本?』
『ん?なん?』
『入学式の日。今さらけど、あの返事面白かったばい。』
『!!そのことはもう忘れて~~!』
『あれは…最高。……けど、お前のおかげでみんなの空気軽くなった。ありがとう。』
 そのあたたかくて優しい笑顔にキュンときて……。
「…おい?橋本?」
「え?あ!はい!」
「聞いとるや?」
ハッと顔を上げるといつの間にかお説教は終わっていたらしく、浅榎が不思議そうに顔をのぞきこんでいた。
「あ!ごめん!次からは気をつけるけん…。」
「…ったく。それ何度聞いたと思いよっとや…。」
浅榎が本日2回目のため息をつく。
 そのすぐ後、思い出したように話かけてきた。
「あ、そういえば。俺に何か用やった?」
「あ、そうそう!実は…叶斗にお願いがあるっちゃんね…。」
…さっきまでのやりとりですっかり忘れていた。本当は大事な話があってここへ来たのだ。
「なんや?」
「えっと…。もし今度、私が県大会の100mで1位になったら、願い事を一個叶えてくれんかな?」
 私は小学生の頃から陸上部に入っている。浅榎も、同じ時期に地元の軟式野球チームに入っていた。お互い大会では上位をキープしており、県大会はもう2週間後にまで迫ってきていた。
 浅榎が一瞬驚いた顔をしたがそれは本当に一瞬だけで、そのすぐ後、予想だにしなかった言葉が返ってきた。
「…分かった。そのかわり、もし俺が県大会の決勝戦でホームランば打って優勝したら、俺の願い事も1つ叶えてもらうけん?」
 悪戯っ子のように二ヤッと笑う浅榎。人をはめたときにするこの顔。その顔を見ると、ドキッとする。でも、この気持ちを浅榎に悟られるわけにはいかない。
 私は、さっき浅榎がしたような悪戯っ子の顔を真似して
「OK。なら、お互い県大会で。」
と言い、右のこぶしを握る。
 浅榎はそれを見て少し笑うと自分もこぶしを握って、私たちはグータッチを交わした。
 その日の放課後。
「流璃~。一緒に帰ろう~?」