━━キーンコーンカーンコーン…。
 昼休みの始まりを告げるチャイムが学校中に鳴り響く。クラスの中ではお弁当を広げる女子や、昼食を求めて購買に駆け出す男子。とっくに昼食を済ませて校庭へ駆け出す人や、気だるそうに机に顔を伏せている人もいる。
 そんなみんなとは裏腹に、チャイムが鳴り始めるのが早いか、私は3-6の教室を飛び出し、鳴り終わると同時に勢い良く3-4の教室のドアを開け放った。教室中の視線が私に集中する。
「やっほ~!浅榎(あさか)!おる~?」
 私を見て何かヒソヒソ声で話している女子や、「橋本ちゃんじゃん!」とか言ってガン見してくる男子の間から、私が呼んだ名前の持ち主である浅榎叶斗(あさかかなと)の姿が目に入った。鼓動が早くなるのを抑えながら、彼が来るのを待つ。
 当の浅榎は他の生徒とは違い、なんだか呆れかえったような顔でこっちを見ていた。そして、大きなため息を1つつくとこちらへ歩いてきて、私の目の前で止まった。
「お前さ、もう少しましな呼び方ないと?いきなり大声出してさ━━」
 ━━浅榎は私に対する愚痴を言っているが、私にはそんな愚痴は全くと言っていいほど聞こえてていなかった。
 低いけれど、優しい感じの声。少し長めの天然がかった黒い髪。切れ長の男子にしては大きな瞳。身長は私より少し高いくらいで、野球で鍛えられた筋肉質の、でも他の野球部に比べるとほっそりとした身体。どうしても目が行ってしまう。
 私が知る限り、この学校内で1番モテている男子。それが、今目の前にいる彼だ。
 …私、橋本流璃加(はしもとるりか)は、入学時から浅榎に恋しちゃってます。
 初めての出会いは、中学校の入学式。初めてのクラスで緊張していた私は、出席確認のときに━━。
『橋本流璃加。』
『ひっ…ひゃいっっ!!!』
 …というような、なんとも間抜けな声で返事をしちゃったわけですよ。はい。
 もちろん教室中で笑われて、私は恥ずかしくてたまらなかった。
 すると━━
『…ははっ。緊張しすぎやろ。お前、そんな小心者なん?』
 隣に座った男子に声をかけられた。それが、浅榎との出会い。
 そのときは『そんなに言わんでもいいやん…』と、あまりいい印象は持たなかった。でもお互い学級委員に任命されてからは、自分でも驚くくらいに浅榎と仲良くなった。
 思い出してみれば、最初はクラスのみんなもガチガチに緊張していた。だけど私があそこでポカしたことによって、クラスの空気が軽くなったように思う。
 それから、クラスのみんなが仲良くなるのに時間はかからなかった。だから、あながちいいきっかけになったんじゃないかと思う。