彼はニコリと笑顔を浮かべながら、手にしたハンカチをポケットに戻してしまった。
一体、何がしたかったんだろう?
ハンカチを出した意味が分からない。
不可解な事を目にしたからなのか、冷静さを取り戻す事は出来たけれど。
私が手を口元に当てて首を傾げると、彼は咳払いをしながら話し出した。
「俺とキミは、偶然この場所に居合わせました。埃の被っていたファイルを触れたからか、キミの目にゴミが入り、猛烈な痛さの余りキミは涙しました。目に入ってしまったゴミを、俺がハンカチで取ってあげていると、傾いていたファイルが倒れ、その音に驚いたキミが音のした方に顔を向けると、偶然唇が触れ合ってしまいました。」
「…えぇ?!」
「っていう事にしておこうよ。今のキスは。
そうすれば、キミの心配事は解決。
仕事とプライベートをしっかり分けているキミだからね。」
彼は、本当に何でもお見通しなのかもしれない。
それとも、私が分かりやすい位に単純なのだろうか。
さっきとは違う恥ずかしさに私が何も言えずにいると、彼は資料室のドアを開け私の背に手を添えた。

