「いらっしゃいませ」
相沢はすぐに得意の営業スマイルを作ると、山本さんの前から少し距離をとって立った。
「こんばんは。今日も会えて良かった」
相沢の嫌そうな顔など気にしないのか山本さんは笑顔を向ける。
「持ち帰りでブレンドを」
「かしこまりました」
俺がレジを打つ横で相沢がテイクアウトの紙カップにブレンドを淹れた。
「相沢さんてさ、下の名前なんていうの?」
山本さんが急に相沢に話しかけたことには驚いたが、下の名前まで聞いたことにも驚いた。
「教えません」
冷たく言い放つ相沢に、俺は口をぽかんと開けた。
「そろそろ教えてほしいんだけど」
「知ってどうするんです?」
「今度から名前で呼ぶから」
「それなら尚更教えません」
山本さんに対して遠慮のない言い方に俺は完全に固まった。
相沢、お客様になんて対応してんだよ……。
「ほんと、冷たいなぁ……傷つくー」
山本さんは少しも傷ついていなそうな顔をして笑う。
「山本さんにだけです。こんな態度は」
「それは嬉しいな」
「特別嫌いってことですよ」
店員とお客様の関係からは想像できない、今のこの二人は一体なんだ?
「どうぞ」
相沢はブレンドを淹れた紙のカップを強くカウンターに置いた。とても紙とは思えない『コツン』とした音が聞こえ、中身が大きく揺れたことが想像できる。
「ありがとう。また来るね」
相沢の態度をどこまでも気にしていない山本さんは、最後まで笑顔で店を出ていった。
「ありがとうございました……」
「…………」
山本さんが出ていくときにも何も言わなかった相沢の顔を見た。
「なに、今の。知り合い……でもないよね?」
相沢は不機嫌そうな顔をしている。



