連れて行かれたお店はメディアで頻繁に紹介される予約必須の有名店だった。以前の私たちのデートでは絶対に入らなかったお店だ。自分も支払いをしたがる瑛太くんに遠慮して視野にも入れなかった価格帯の店。

「予約難しかったんじゃない?」

席に案内されて瑛太くんに小さな声で聞くと「朱里さんに再会したらすぐに予約した」と言う。

「前の俺たちじゃできなかったことをしたいなって思って。いいお店に行くのも、旅行も」

「旅行……楽しそう」

時間を空けたからこそ選択肢も増える。一度深い関係だったからこそ、やり直しは過去以上に盛り上がるのだろうか。

「落ち着いたら休み取るから行こう。たぶんクリスマス過ぎれば落ち着くと思うし」

瑛太くんは穏やかに笑うから私はまた成長を感じる。旅行の計画を立てようものなら自分の時間を削ってまで決行しそうなのに、今では当たり前に仕事を優先している。社会人として当たり前のことをやるようになって嬉しい。考え方が私と近くなっていく。
メニューを見ながらスムーズに注文をする瑛太くんは私の顔色を窺ったり迷ったりはもうしていない。私も気を遣うことはなくリラックスできていることに驚く。

瑛太くんのスマートフォンが鳴る。数秒おきに何度も短い着信音が聞こえてくる。

「ごめんね……仕事関係だ」

「電話?」

「違う……店長から……メッセージ」

瑛太くんはスマートフォンの画面を操作しながら私に返事をする。

「外に出て電話してきてもいいよ?」

「うん……大丈夫そう」

スマートフォンをテーブルに伏せて置くと再び私に謝る。

「二人の時間なのにごめんね」

「いいよ。大事な連絡なんでしょ?」

「うん。やっぱ新規でオープンしたばっかだと色々と社員同士連絡することがいっぱいで」