永瀬は赤い顔のまま真っ直ぐに私を見つめる。

「俺、千里が好きだよ」

「…またいつもの冗談?いい加減私をからかうのやめてよ」

「冗談なんかじゃないよ。千里は冗談と思ってるかもしれないけど、俺はいつも真面目に告ってんの」

頼むから…そんな真剣な目で見ないで…

「ねえ…千里は俺のことどう思ってる?」

珍しく真剣な表情で私を見る。
その目が急に怖くなった。

「千里」

突然強く抱きしめられた。抵抗する間もないまま。

「お願いだからもう逃げんなよ」

その声は今にも泣き出しそうだった。抱きしめられている状態では永瀬の顔が見えない。

「好き…千里が好き。千里の気持ちが知りたい…」

必死な声が私には苦しみを与えるようだ。

「うざい…そういうのうざい」

私を抱く永瀬の腕から力が抜けていくのが分かった。

「いつも無理矢理抱きしめるのとか、引っ張られるのとか、追いかけられるのとか…嫌いなんだよ!いつもいつも好きって気持ち押し付けてばっかで一方的で…もううんざりなんだって!私がみんなにどう思われてるか知ってる!?影でなんて言われてるか知らないんでしょ!全部永瀬のせいじゃない!」

一気に捲し立てた。永瀬の顔を見るのが怖いから足元を見ていた。

ねえ永瀬、私は今どんな顔してる?

この瞬間の私はきっと永瀬の好きになってくれた顔じゃないだろう。

「俺のせいで千里は笑わない?」

「そうだよ」

永瀬がそばにいると私は笑うことができないよ。

「…そっか。ごめんな」

永瀬が私を解放する。私は永瀬の顔を見れない。

「もうしないからさ…千里が可愛くてつい…」

「可愛いって何!?私のことからかってんの?馬鹿にしてんの!?」

怒りが湧き上がって永瀬の顔を見た。永瀬は笑っていた。

「馬鹿になんてしてないよ。そう思うから言っちゃうの」

「それも二度と言わないで…うざい」

「分かった…ごめん」

何だよ言われっぱなしで、他に言うことないの…?

「今日は帰るわ。送っていけなくて悪いけど」

「送ってくれなくていいよ。子供じゃないんだし、一人で帰れるって」

「…そうだよな」

永瀬は最後まで笑っていた。