校門の前に女の子が立っているのが目に入った。隣町の有名女子高の制服を着ている。その子は永瀬を見るなり緊張しながらこっちに歩いてくる。

「あ、あの…永瀬くんだよね…」

恥ずかしそうに話しかけてくる女の子は永瀬に何を言おうとしているのかがすぐに分かった。

ほらね、この子も永瀬が好きなんだ。

「私帰るわ。じゃーね永瀬」

「あっ、ちょっ千里!」

永瀬が私の腕を掴んだけれど、それを振り払う。

「その子永瀬を待ってたんだよ。話聞いてあげなって」

そして私は永瀬の顔を見ずに門を出た。
永瀬から逃げた。





ぼんやりと駅まで歩いていた。

「………里!……千里!!」

追いついた永瀬が再び私の腕を掴んだ。

「千里!待てって言ってるだろ!」

「嫌だ!離してよ!」

「怒ってるの?俺何かした?」

「………別に。永瀬に掴まれてる腕が痛いだけ」

「あ…ごめん…」

慌てて永瀬は腕を離した。私の腕はぶらりと力なく垂れる。

「さっきの子は?また告白でもされちゃったんでしょ?」

「うーん…まあね。でも断ったし」

「へー…何で?結構可愛い子だったじゃん」

「俺好きなやついるし、断るの当たり前でしょ」

「…………」

「それに、俺のこと何も知らないのに告白するって意味不明」

永瀬は少しだけ不機嫌そうな声で言うと目を伏せた。

「永瀬は有名じゃん。みんな知ってるよ」

「じゃあさっきの子は?俺初めて会ったし、向こうも『永瀬くんだよね』って確認する感じだったよ。それって俺のこと知らないよね」

「それは…」

「それで何で俺が好きなの?見た目?」

「………」

永瀬は怒っている。こんな永瀬を初めて見た。

「………永瀬こそ」

「ん?」

「私の何を知ってるの?私の何が好きだっていうの?」

初めて会ったときから付きまとう。私のことなんて何も知らないのに。

「何が、っていうのはないんだ」

「は?」

「初めて会ったとき、千里は色んな顔を見せてくれた」

「私、永瀬に何もしてないよ?」

ただ座ってよろしくと挨拶をしただけだ。

「初めてのクラスで緊張した顔や、去年同じクラスだったやつと話すときの笑顔、座席表を見て不安な顔。コロコロ表情が変わった。ああ、こいつ可愛いなって」

永瀬は照れているのか顔が赤くなった。

「こんなこと言うと俺も結局顔じゃんってなるんだけど、千里のそばにいると俺も笑える」

やめてよ、そんな目で見ないで…