『明日のぶんも終わったー!』
「やば。んじゃあ明日は有給でもとって彼氏とご飯?」
『いいね!最近出来たバーに行こうかな』
「どうせ彼氏いないくせに」
『うるさい。その通りよ馬鹿』
午後3時半。
明日のぶんの打ち込み作業も終わった私は、ペラペラと隣の美奈実と話していた。
美奈実も、今朝のようなおどおどしさは無くなっていた。
腕時計を見る。
『うーん。3時半か…』
「いーよいよ追跡だねぇ。場所どこかわかるの?」
『うん。分かんない。だからタクシーで行こうと思ってる。住所は書いてあるし』
「ふふふ。ご苦労さん」
いつもなら美奈実のこの態度と言い何からなにへと腹が立つものだが、今日はそんなでもなかった。
きっとそれは、いつもみたいな美奈実の堂々さがなかったから…かもしれない。
いつものバッグに、カメラとファイリングした資料を入れる。
『あとでコーヒー買っていこうっと』
「外寒いからね」
『マフラーあれば大丈夫だよね?』
「風はそれほど強くなさそうだから、大丈夫だと思うよ。夜は冷えるだろーけど」
『うん…やだなぁ』
季節は冬前半。
11月中旬である。
私は、ピンクのマフラーを首に巻いて、作業室を出る。
時刻は、3時40分。
『じゃあ明日』
「頑張ってね~!また明日!」
近くにいた美奈実に挨拶して、そのまま作業室を出た。
エレベーターで一階まで降りて、会社を出る。
社内とはまるで違った、自然の寒さが肌に伝う。
マフラーの隙間に入る冷たい風が、全身を身震いさせた。
『コーヒー、コーヒー』
寒いので、ブツブツ口を震わせながら話す。
目の前にある自動販売機に、200円を入れた。
微糖…微糖……あった。
ボタンを押す。
…が、出ない。
『あれ?』
ボタンは赤く点滅していた。
その浮き出ては消える文字は、2文字。
゛売切゛。
最悪だ。
その日は仕方なくブラックにした。
缶を取り出した瞬間、手から伝わる温かい温度。
人工的すぎない温かさ。
コーヒー缶ひとつでぬくぬくと温かさに
浸っているうちに、タクシーが来た。
乗り込んで、いざ目指すは人気俳優の家。
『ここまでお願いします』
そう言って、ファイルの中から住所が書かれた資料を取り出して見せた。
タクシーは、ゆっくりと目的地まで走りだした。
