しばらくして、タクシーが来る。





自動で開くタクシーに乗ると、とっさに目の前に出されたピンクのハンカチ。


「使ってよ」





優しそうに、和真さんは言ってくれた。


その優しさに、私は甘えてしまう。







『うっ………ゔ…っひっく…』

さっきこらえて閉じた涙が、今になって溢れる。


今私に優しくするなんてズルいよ…




心の隙を付かれてしまいそうで。









その予想は、あたったとともに、私は優しさにすがってしまう。

その限度を知らずに。



一線を越えて。







和真さんは、ハンドルを握りながら言った。

「俺でいいなら、少し腕貸すよ。今日本当は休みだし」

『……おねっ、おねがいしまっ』

「優那チャン家でいいんだよね?俺………」

『?』

「ん、なんでもない」









ピンクのハンカチ。

ありだがたく使う。



いつもは嗅がない柔軟剤の香り。

へえ。和真さん意外といい香り使ってんだなぁ。











『わ、わたし………和真さんみたいな人がいいですっ…』


「ははは、何急に敬語になってんの?」



笑いながら、和真さんは言った。






「辛かったよね」

…………やめて。


「本当は普通がいいよね」


………今、それを言わないで。



「なんで、思い通りに言ってくれないんだろうね。難しいね。恋って」




………だめ。








『…………ぅ、ん、ひっく……うわあああああんっ』


犬の遠吠えみたいな、でかい泣き声。




もうわけわかんないよ。


揺れる車内。

響く私の泣き声。


そして香る、ハンカチの匂い。






……………もう、疲れちゃったよぉ。













タクシーの中にかかるラジオの音に誘導されるように、私はまぶたを閉じた。