揺れるタクシー。


私の体調に気を使ったか、ドライバー和真さんは、いつもより速度を落としてくれた。




ボヤボヤしている頭の中、和真さんと、くだらない会話を交わす。








「優那ちゃん体弱すぎだね」

『昔からなんです』

「ふーん。てかさ?いいよ、敬語使わなくても」

『い…あ、うん』

「はは、素直だな~。ところでさ……」




和真さんが何かを切り出す時に、私のバックの中で携帯が鳴った。










画面を見ると、゛圭斗゛。



「どうせ圭斗だろ?」

勘付いた和真さんが、私に話しかける。
タクシーは、赤信号に捕まっていた。










『あ!うん!ごめん!出るね!』

「謝るくらいなら出んなよ(笑)」




…………?









和真さん、何言ってんだろ?


笑っては居たけど、なんだかいつもの感じじゃない。


















気がかりをよそに、応答ボタンを押す。




『もしもし……』

「あ、もしもし?優那か?って、優那だよな」

『当たり前じゃん』


聞きたかった、暖かい声。










最近の携帯は音質がいい。

まるで、耳元で話されているような……感覚。
















『で、なに?急に。電話なんて珍しいね』

「そうか?んー、まぁ。会いたいんだけど」

『は?』

「照れんなってー。今日、俺ん家で待ってるから。マフラーとマスク、必須な。忘れんなよ!」

『え!ちょ!待っ……切れちゃったよ』






全く。

自己中にもほどがあるわ。



携帯をしまって、和真さんに話しかける。

『ごめんなさい、圭斗の家までいいですか?』













………あれ?

返答がない。




『和真さ…』

「この信号曲がったら圭斗ん家だよ」



いつもとはどこか違う冷たさで、和真さんは言った。













のんびりだからか、いつもよりタクシー代が高い。


ここでいいです、と。


信号の前で降ろしてもらった。






















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俺のタクシーから降りた優那の後ろ姿を見て、俺はつぶやいた。


「ぜってー俺のモンにしてやる…」