「なーお前マジでこのまま続けてくつもり?」
「それな。俺も思う」
「紗羽さんにバレたら大変だぞ?」
「わかってる」
俺は今、タクシーの中にいる。
タクシードライバーはもちろん、和真。
今から向かう先は、紗羽さんの家。
行きたくないはずが。
俺の足は義務的に動いていた。
「俺思うよ。お前、どっちか捨てるべきだよ」
「どっちか…?」
急に言い出した和真の言葉にビビる。
「うん。優那ちゃんか、紗羽さんのどっちか」
「俺は、優那を捨てたくない」
なんだか、和真の顔が見れなかった。
「でも、優那ちゃんを取ったら、いずれ優那ちゃんを捨てちゃうことになっちゃうんだぜ?」
「どういうことだ?」
「優那ちゃんを例えば取ったとしても、それを紗羽さんが認めねーだろ。優那ちゃんに何しでかすか分かんねえ」
「…」
確かに。
それは正論だった。
今時期優那をとったところで、いずれ紗羽さんによって俺と優那は離されてしまう。
ならばいっそ……………………紗羽さんを。
いやいや、やめてくれ。
俺は、優那が良いんだ。
優那じゃなきゃ…
「俺は優那に惚れたんだ。優那じゃなきゃ、無理」
固く思う心を、前にいる和真の後ろ姿に向かって言った。
和真は振り返らなかった。
「まあ、いいんじゃねーの?てか、ついたよ」
振り返らないままの和真は、微妙に冷めているように思えた。
「お、あ、ありがとな」
俺は返事を返す。
と同時に、和真の思いつく声が聞こえた。
「あ!」
「ん?」
「お前この前優那ちゃんが風邪引いた時、1万出したよな?タクシー代そんなしてなかったから、おつり」
そう言って振り返った和真は、手に5000円を持って俺に差し出した。
「いや、要らねぇって言ったのに…」
俺は、申し訳なさそうに受け取る。
「あのねー。リーダーがちゃんと返せってうるさかったから。言われなかったら俺のお小遣いにするとこだった」
手を降って、タクシーを出る。
重い足取りで、目の前にあるアパートに向かう。
サングラスとマスクを、最大限に上にあげて。
さっきまで俺を乗せたタクシーは、なかなか進まなかった。
タクシー内、一人、運転席に座る男が言った。
「俺だって優那ちゃんのことが……」
もちろん、それは圭斗に聞こえているはずも、見えているはずもなかった。