服に着替える。

紗羽さん…………居ませんように。
って、居るに決まってるか。





撮影場所に行って、マネージャーと、ポージングや立ち位置を確認する。

イメージトレーニングをしていたとき。



俺の嫌いな、ヒールを引きずって歩く音が聞こえた。

まぁ、ヒールを引きずって歩くのは、アイツくらいしか居ない。












「圭斗、久しぶりね」

「………紗羽さん」


紗羽さん。
衣装とはいえ、ガバッと開いた胸元が俺は嫌い。

きつい臭いをまとった紗羽さんは、俺に異常に絡んで言った。







「ねえ?最近メールも電話も冷たくない?会ってもないしねえ」

俺の服の中に手を入れて話す紗羽さん。
手を退けて、俺は丁重に言った。


「忙しかったり風邪引いたりしたんで…すいません」

「今日の夜…空いてる?」

「今日の夜は空い……」


急に誘われたから、俺は即決だった。
゛空いてません゛
そう言おうとした瞬間…




「空いてるわよね。私のアパートで待ってるわ」


耳元で吐息をわざとらしく吹きかけてきた紗羽さん。
さっきまで舐めていたのか、微妙に息がミントの匂いがした。




断ることもできず、強制参加。












その後のスナップ撮影は、あまり乗れなかった。

罪悪感が消えないからだ。



「圭斗ー。笑えー」

いつものカメラマンが、俺ににっこり笑って合図してきた。



「すいません」

俺は謝罪の一言でも一つ。



その後に続く、隣にいた年配の女。
紗羽さんが言った。

「あたしとヤれなくて欲求不満なんじゃーないの?仕事は仕事よ、ちゃんとして」







…………は。

そんなじゃねーし。



むしろ……もう、やめたいのに。

胸から沸き上がる苛つきという感情を抑えて、俺は冷静に言い放った。











「全くそんなんじゃありませんから」



初めて俺が、紗羽さんに対抗した時だった。