時刻は夜の8時。

だんだんと社内の人数も少くなってくる。



それに加えて、私の疲労も増す。



  


昼間よりは、資料の数も少なくなって、残り数十枚…頑張ればあと一時間で終わる。


使いすぎて麻痺しそうな指先を無視して作業を進める。






そのとき、隣の美奈実が話しかけてきた。

「ねえ。お腹空かない?」



私は、目はパソコンのまま、美奈実に返事を返す。

『うーん。ちょっとね。さっきから珈琲飲んでるからちょっとは腹満たしになってるかも』

「へえ。優那珈琲飲めるんだ。しかもブラックじゃん」




私のディスクの隅にあったコーヒーの缶を見て、驚きを隠せない美奈実。










確かに私は童顔だし低脳だけど…さすがに珈琲くらい飲めるよ。

全く。


サラッと人の気掛かりな言葉言うのがこの美奈実だ。






「私もレモンティー飲もうと思って自動販売機行ったんだけど、ミルクティーしかなかったからやめた」

美奈実は、いつのことだか自分で自慢と語っていたロングの茶髪を弄りながら、口を尖らせて話す。



私は相変わらずパソコンに目、手は止めず。

着実に作業は進んでいる。







『へえ。私もね、本当は微糖が良かったんだけど、ここの会社の人微糖派多くて。すぐ売り切れるから、なかったんだよね』


缶コーヒーの残りの数mlを飲み干して、最後の作業を迎える。
 

今手にとった資料を最後に、今日の仕事は終わる。











カチカチカチカチカチカチカチ。




黙々とキーボードを打つ。













最後のインターキーを押して、今日の作業は終わった。



『よっしゃ!!!終わった!』

あまりの達成感に、小さくガッツポーズを作ってみせた。





部長のディスクに、編集し終えた資料を乗せる。













…マジでやっと終わった……








『んじゃあ美奈実、私お先に失礼するね♪』

私の心は達成感に満ち溢れすぎて、語尾が引き上がる。


こういうオフィスの仕事って、何年やってても、資料を終えたあとの喜びはいつでも嬉しい。

その達成感は、未だ慣れない。






「え~。いいなぁ。ちょっとくらい手伝ってよ?」

『無理無理。頑張って終わらせちゃいな!』


もう手伝っている暇なんてない。

早く帰ってお風呂に入りたい。





今はそれだけだ。


「一人でやるのはいいんだけど、この作業室に一人でいるのが怖いのよ」


見た目の派手顔とはまるで別人の、臆病な性格の美奈実。



差し入れに、バッグにあった缶コンポタージュを差し出した。






『まぁこれ飲んで元気出して。』

「…分かったわよ。んじゃあまた明日ね!」









笑顔の美奈実を作業室に残し、ドアを閉める。

現時刻は9時10分。






こっから家なら9時半には着けるな。

よし。











ヒールの音を自慢気に鳴らして、足早に家路に向かった。