『だーから!あれはただの勢いでしょ!』

「んん~、良かったわぁ♡昨日の優那」

『うっさい!キスしかしてな……あっ』

「うわ!自分から言った~、自爆♪」

『うるさいうるさいうるさーい!』

「耳壊れる、携帯壊れる」





会社のトイレ。

一番奥の個室に入って、携帯電話を耳に寄せる。


通話の相手は、昨日の圭斗だった。

昨日の話で、妙に盛り上がってる。





「ちゅー以上のこと、したかった?ん?」

『は?きもいわ!』

「んー。なんだよー。俺肉食女子派ー」

『…肉食女子か』




…紗羽さんの事かな。

微妙に胸に来る、チクチク感。


どうせ私は草食ですよ…だ。





「あ!ごめん!紗羽さんの事じゃねえよ?冗談だろっ、気にすんなよ」

私に察した圭斗が、電話越しで優しく言う。



気にならないわけがないじゃん。





『あはは…うん……じゃあ私…仕事に戻る』

「は?お前拗ねんな」

『す、拗ねてないよ!も、いいっ、んじゃね』



衝動で、通話終了ボタンをおす。

再度かかってくるんじゃないかなって思って、私は電源も切っておいた。


嫌なわけじゃないけど。




私だって、女心くらいあるもん。

妬いたり…しちゃうもん。








゛もういい゛なんて思ってもないこと言っちゃったし。

怒ってないかな?











個室のドアにおっかかって、もう一度携帯を再起動する。

新着問い合わせをしてみたが、不在着信は入っていなかった。



『来てるわけ…ないか。変な期待しちゃった』


通話履歴に、ついさっきまでの圭斗の番号。



パタン、と携帯を閉じる。








私の頭のなかで、少しの瞑想が始まった。





…ねえ、どうしたら一番になれますか?

…あなたのことが、好きなんです。


あなたを知りたいの………全部。




ココロも、カラダも。














トイレの個室。

一人切なくなる私。



















そのトイレの入り口。

私の嫌いな香りをまとった女が、ヒールを鳴らして、小走りに去っていった。