「そこ座って。なんか飲む?」


『うん、コーヒー飲みたいな』


「ブラック?」


『うん』









部屋に入ってそうそう。


桜田圭斗が私に座れと指さした場所は、白い革タイプのソファ。




それに、オシャレなカバーをしたクッションが2つ。







殺風景と言っても過言ではない、男の部屋。

モノクロな感じで統一してある。






マスコミを気にしているのか、昼夜問わずカーテンは閉まっているようだ。








「何突っ立ってんだよ。座れよ」

しばらく部屋を散策していると、コーヒーを2つおいたトレーを持った、桜田圭斗が話しかけてきた。



私は渋々、そのソファに腰掛ける。





…ソファ、柔らかい。
おしりが吸い込まれていく感じの生地。

高いんだろうな。笑











『あの、その、秘密とやらを教えて欲しいんですけど…』

いれてもらったコーヒーを飲みながら、桜田圭斗の顔を見て話した。



…美男子だなぁ。







「あ?んー。安達紗羽のことから話せばいい?それとも和真のことから?」


せっかくイケメンなのに、なんだろうこの裏の口調は。




内心は言いたいことがいっぱいだったが、敢えてスルー。

『私が知りたいのは、安達紗羽とのことです』
















…桜田圭斗が、自分のコーヒーに、角砂糖を一つ入れた。

湯気の漂う黒い液体を、口づけで飲む。



ふう、と溜息をついたあと、桜田圭斗は語り始めた。







「安達紗羽、38歳。年齢差17歳差。あ、もちろん俺の年齢はちゃんと知ってるよな?」


『いや、知らないです』


「は!?マスコミならターゲットの年齢くらい知っとけよ、基本情報だろが」


『…すいません』





…え、なんで私怒られてんの?
いや、その前に、なんで私謝ってんの。笑





「お前いくつ?」

『21です』

「あ、同級生か」

『そうなんですか』




…基本情報①。
桜田圭斗は私と同年齢。









話は続いた。


「俺、安達紗羽のこと、紗羽さんって呼んでるのね。
かれこれ3年くらいの仲なのに、゛さん゛付けの関係から進めない訳、分かる?」


…あ、確かにさっき、タクシーで和真さんと話してる時、「紗羽さん」って言ってたような………



『いや、理由は知らないです』

私はキッパリと行った。



「ふーん。ファイナルアンサー?」

『…はい』

「はーい。んじゃあ、正解ね、正解は…」



妙な古臭いネタを入れながら話す、桜田圭斗。





「俺と紗羽さんは、カラダの関係だから」

冷たい目で、桜田圭斗は言った。


彼の話は続く。







「紗羽さんの人気が停滞してた頃。紗羽さん狂って、ホスト通ってて。それで、たまたま指名されたの、俺だったの」


桜田圭斗は昔、ホストをやっていたらしい。
病みに狂った安達紗羽がたまたま指名したのが、桜田圭斗。

それが出会いのきっかけだと桜田圭斗は言う。





「んで、俺目当てでくるようになって。最後の方には持ち帰りまでされたわけね」

「俺も火ついて、紗羽の誘惑に乗った。一夜限りにするつもりだったんだよ。けどさ、芸能デビューしないかって急に言われたんだ」







ホテルのベットで、並んで眠る安達紗羽と桜田圭斗。

変な図が私の頭に浮かんで、消えた。





「俺、ちょっと乗り気で。やってみたいっす!って言ったんだ、そしたら…」

桜田圭斗はその先を、一息飲んで話した。







「紗羽さんが言ったんだ。


「私の力で芸能デビューさせてあげる。その代わり、条件は多いわよ」


って」






そしてその条件とやらが、あまりにも酷かった。




・今までホストをしていたことを内緒にすること
・安達紗羽との出会いはとあるバーであるという事にすること
・ホストをやめること


そして……







・私とこのまま今の関係を継続すること。











『…衝撃ですね………』

「俺も、やっぱりやめようと思った」

『なんでやめなかったんですか?』

「この件をのまなかったら、お前の就職先潰すぞって脅されたんだよ」

『そしたら答えは一つじゃないですか…』

「やるしかねぇって事だったんだろ?結局」






冷め切ったコーヒー。

桜田圭斗は、コーヒーカップを両手で持って、水面を眺めながら話した。








『あの………これからもそういう関係を続けるんですか?』

「んー。俺は嫌だな。けど、否定したらどうなる?俺。芸能界やめさせられる?嘘の情報流される?なにするか分かんねえんだ、紗羽さんは」







紗羽さんに俺は叶わない、叶えない、と。
桜田圭斗は頭を抱えてうずくまった。
 


 
毎夜毎夜、こうして悩んでいるのかな。







『あの……』

「あんまりああいう関係やってると俺のアソコもシワるしな」


膝に埋めた顔を上げて、桜田圭斗はニヤッと笑った。











いつもの整った顔に、調味料のようにプラスされた作り笑顔。

調味料名を挙げて言うなら、南蛮。


どこかスパイシー。そしてあとからくる痛さ。
まさに今の桜田圭斗はそうだった。







『毎夜こうやって悩んでるんですか?』

「俺だって、男である前に人間だからな。そりゃ悩むし、病むし、死にたくだって…なるよ」

『無理、しないでください』

「したくないけど、選択肢がねぇよ」



髪の毛をムシャクシャと掻きむしる桜田圭斗。
痛みが、辛さが、伝わってくる。






気づいたら言っていた、私のおかしな言葉。

『私で良かったらお力になりますから。…怪しいって思うなら、マスコミ会社やめる覚悟で。一人で悩まないで下さい…』




私が言った、精一杯のおもいやり言葉。

……だったはずが。






キョトン、とした目で、桜田圭斗は再度話す。

ちょっと上がった口角が、妙に怖かった。







「俺、甘えていいかな…」

『お力になりますから』

「ふうん……んじゃあ、、




























俺の女になってもらおうかな」