タクシーまで走ったとき。





「止まれ」


目の前の桜田圭斗が、急停止して言った。





私は勢い余って、体のバランスを崩しそうになる。

それを、なんとか耐えてみせた。








「タクシーから出てくる女、誰か分かるよな?」

小声で私に問いかけてくる桜田圭斗。






タクシーの方を見ると…


『!』







衝撃だった。




タクシーから降りてきた女性は…安達紗羽。


驚きすぎてリアクションの仕方を忘れてしまうほどだ。








「どーすっかなあ。んー。お前は知らん顔してタクシー乗ってろ。俺ちょっと話してくるから」


そう言ったかと思うと桜田圭斗は、アパートの入り口の方に走って行ってしまった。







私は、彼の言うとおりタクシーに向かった。





タクシーに近づく。








スッと、安達紗羽とすれ違う。


安達紗羽は、持ち前の小さな顔の2周りほど大きい女優帽を気取り被って、赤いヒールを鳴らしながら歩いて行った。



後から来る、キッツい香水の匂い。





ふと、美奈実を思い出した。











私は小走りでタクシーに乗り込む。


ドアを閉めて、窓から二人の様子を眺めた。







すると、運転手が行き先を聞いてきた。



「あの、どこまでですか?」

『もう一人乗るのでちょっと待ってて下さい!』




乱暴に返事をして、窓の外に目線を戻した。











アパートの入り口。

アパートの入り口のところだけに光る、オレンジの外灯。




ボヤケて映し出される、2つの影。


その影が…重なる。









安達紗羽と桜田圭斗は、キスをしていた。