耳元で囁かれる甘ったるい声に、ビリっと何か静電気のようなものが伝わる。




『こっ…これは仕事の一貫で…っ!』


慌てて撤回を求む。




あーあ。これじゃあ、バレバレだよ。








「俺の事情教えてやるからさ、カメラと録音機器、ここに置いて」


桜田圭斗は、何か話したかと思うと、その長い指先で地面の芝生を指さした。





私は従って、持っていたカメラと録音機器を全て彼の指差す芝生に置く。









すると桜田圭斗は、私にサングラスとマスクを渡してきた。



「これ掛けて。あとタクシー何でもいいから呼んで」

『え!?は?なんでですか!?』

「お前に教えてやるからだよ。それと、本当に俺のことナイショにしてくれる自信ある?」

『……?』

「お前みたいなタイプってさぁ、会社の利益の為なら~なんて言ってすぐ俺のこと報告すると思うからさ」


『…』







何なんだこの人。

初対面にして、私の性格を精密分析してやがる。



…実は、そうするつもりだったんだ、私。









「だからさ?俺のことナイショにしてくれなさそうだからさ…。お前、俺のね」


『は?』















ササッと軽くそんなことを言った桜田圭斗。




言っている意味がわからない。


俺の……?








「あ、タクシー呼んでくれた?」

空気を紛らすように、桜田圭斗が話す。



『いいや。まだですけど』

私もそれに応答する。




「ふーん。呼ばなくていいよ、なんかそこに居るっぽいからさ」





桜田圭斗が指さした向こうの道路に、一台停車しているタクシーが居た。





それと同時に、桜田圭斗が私に質問をしてくる。








「マスクとサングラスOK?」

『YES』






桜田圭斗の質問に、ノリで応答。








さっきササッと渡されたマスクとサングラスを、私は急いでつけてみせた。














「タクシーまで走んぞ!」

『I can do it!!!』

「yes!we caaaaaaan!!!!!」



初対面なのに、まるで幼なじみみたいなノリの良さ。







私達はマスクとサングラス姿で、向こうのタクシーまで走りだした。