「だから、まじで愛ちゃんに何もしないで。
俺、愛ちゃんが悲しい顔してるの、本当に辛い」

「……」

「ね?沙紀」

「何でですか」

「ん?」

「何で、私じゃダメなんですか」


沙紀さんは目に涙を溜めて秋人の顔を真っ直ぐに見ていた。
それはあまりにも真っ直ぐで、思わず息を呑んでしまうほど。



「……あのね、清ちゃんの言葉一つだけ訂正しておく」

「え?」



本間は間の抜けた声でそう言った。
秋人は少しだけ眉を下げて、口を開く。



「抱いた女が対象外なんじゃないよ。
自分から抱きたいと思う女じゃないって事が対象外なんだよ」

「……」

「俺、沙紀に抱く前も後もキス、一切してないよね?」

「……」

「それはしたいって思わなかったから。
でも、愛ちゃんは違うの。何度もしたいって思ったんだよ」



秋人のキスには、そんな想いもあったんだ。
そして、私は秋人の中でどれだけ特別な位置にいるんだろうと思った。


麗さんに辿り着かなくたっていい。
秋人の中での、特別なら。


我ながら何て都合いいって思うけど。