神殿に一歩踏み込むと、いきなり背後から声を掛けられる。


「随分、もったいぶって登場するんですね。トール・フジエダ」

甲高い男の声に驚き、後ろを振り返る。

40代前半と思しきその男は、ダークスーツを身に纏い、神経質なまでに整髪料で撫で付けられた赤味がかった栗色の髪を幾度も忙しなく撫で付ける。